教えてあげましょう
最終更新 : 2018/09/08
最終更新 : 2018/09/08
人通りの多い駅前にて、金髪の中年男がきょろきょろと周囲を見回している。手にさげたボストンバッグはぱんぱんに膨れており、かなり重たそうだ。男は何か言いたげに、道行く人々の背中に腕を伸ばそうとして、下ろす……そんな動作を繰り返していた。
人々は男の様子を見ても知らぬふりをして通り過ぎていく。
しばらくすると、OL風の女性が男に声を掛けた。たどたどしい英語だ。
『あの、何か、お困りでしょうか』
男はぱっと目を輝かせた。男は日本語で返した。
「おお、すいまセーン。日本語で大丈夫デース。助かりマース。あなたのような優しいカタがいてくれてうれしいデース」
男の日本語に安心した様子で、女は胸を張った。
「何でも聞いてください。私が教えてあげましょう!」
男は女の声を聞くと嫌らしい笑みを浮かべ、持っていたバッグの中をあさった。
「アナタはチャンカック=パメルドラを知っていマースか?」
「パメル……何ですか?」
女は眉をひそめた。
「知らナイのデスね?」
男はバッグから分厚い本を取り出すと、それを女に差し出した。
表紙には三つ首の天女が描かれており、タイトルは『チャンカック=パメルドラ~我ら選ばれし者の絶対神~』。
「ワタシが教えてあげマショウ!」
男が早口に入会金やら何やらの解説を始めようとした瞬間だった。
女の姿が一瞬にしてかき消えた。
男は中空を見つめる。そこには、三つ首の天女が浮かび微笑んでいた。三つの表情には先程の女の面影があった。
『私の姿が見えますね』
「そ、そんなバカな。パメルドラなんて、いるはず……」
『本当に残念です。親切心を利用した布教活動など、人間のすることではありません』
男は呻き、膝立ちの格好になり、喉を両手で押さえた。嗚咽しながら、口からは赤い泡が吹き出した。顔面に、そして喉を押さえる手に、破裂せんばかりに血管が浮かび上がった。
周囲の通行人はその様子に気付き、パニックになった。
『悪しき心を持つ者がどんな醜い最後をむかえるか――教えてあげましょう』
(おわり)
溟犬一六(めいけんいちろ)。雑種のクリエイター。ハンドル名はガバチョなど